(ストーリー)
STORY
繋いでいく、美の思想。
緑と歴史が息づく、代々木の邸宅
渋谷区代々木五丁目。
足もとには代々木八幡の森、そして代々木公園、明治神宮と、都心では手に入れがたい緑の環境が息づく場所です。
代々木公園には、かつて米軍の街「ワシントンハイツ」がありました。
戦後の東京において、ここは異国の文化が漂う特別なエリアであり、
その後、1964年の東京オリンピックでは選手村として世界の注目を集めました。
やがて跡地は「代々木公園」として整備され、今では都心の貴重な緑として多くの人々に親しまれています。
この土地には、都市にありながらも、自然と時代の流れを感じられる、穏やかな空気が満ちています。
「代々木の杜ハイツ」が誕生したのは1973年。
総戸数125戸というスケールに加え、24時間有人管理体制を備え、
敷地内には四季の移ろいを映す日本庭園も設けられました。
東京が国際都市として成熟しはじめた時代に生まれたこの建築は、
新しい都心居住のかたちを提案した存在でもあります。
都市の中で自然を感じ、人間らしく、心豊かに暮らすという思想が、この建物には脈々と受け継がれています。
代々木の杜ハイツへとつながる、前章の物語
「代々木の杜ハイツ」でのプロジェクトを構想する以前、
私たちはマルニ木工、そして設計者であるknofとともに、2024年に「東急ドエルプレステージ代々木公園」でリノベーションプロジェクトを手がけました。
マルニ木工の、木という素材と真摯に向き合う姿勢、そして「ものづくり」を支える哲学に深い感銘を受けながら、その姿勢から学びながら、空間を完成させていきました。
同年10月、マルニ木工が「Tradition Project」を発表。
1966年、カービングマシンを導入し家具彫刻を始めて以降、
フランスやイギリスの伝統様式を取り入れた「エジンバラ」「ベルサイユ」「地中海」などのシリーズを展開してきたマルニ木工。
その長い歴史を踏まえ、祖業であるクラシック家具を現代の視点で再構築しようというのが「Tradition Project」の目的でした。
木と手仕事。その本質をマルニ木工に学ぶ。
「工芸の工業化」「座る人も美しく見える家具づくり」、創業当時からこの思想を貫くマルニ木工。
祖業であるクラシック家具の製造を通し、木の特性を最大限に生かすため、
曲木、彫刻、突板といった技術を研ぎ澄ましながら、
企画・製造・修理までを一貫して行う体制を築いてきました。
その蓄積が、深澤直人デザインの「HIROSHIMA」など、数々の名作家具を支えています。
「Tradition Project」は、マルニ木工の技術と思想の原点であるクラシック家具を次の時代へ引き継ぐための取り組み。
過去に培われた価値を、いまの感覚で再解釈し、“伝統を生かす革新”を試みるものです。
この取り組みに共感し、私たちは「代々木の杜ハイツ」でのプロジェクトにおいても、
協業パートナーとしてマルニ木工、設計としてknofを引き続き迎えました。
さらに「Tradition Project」のディレクターを務められた相馬英俊さんをプロデューサーに迎え、プロジェクトを進めることになりました。
「繋ぎ手」として、時代性と今、家具と建築、住み手と住居を繋ぐ。
「Tradition Project」ディレクターである相馬さんから提案いただいた今回のプロジェクトのテーマ。
それは、「繋ぎ手」という役割を担うことでした。
マルニ木工の「Tradition Project」がそうであるように、長い時間の中で培われてきた職人の技術、誤魔化しのないものづくりの姿勢や想いを未来へ繋ぐこと。
そのために、この街、この建物、この部屋が持つ魅力、そして当時の作り手の想いや美意識に向き合い、そこに宿る本来の力に光を当て、引き上げ、伝えていくこと。
作り手の想いに共感する使い手が、その思想とともに愛着を持って暮らし、生きていく。
そんな循環を目指すプロジェクトが、ここに完成しました。